大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)763号 判決

被控訴人は昭和二九年四月頃友重寿太郎から金借方の申入れを受けたが、金がないとの理由でこれを拒絶した。しかしその後も友重から再三その申入れを受けるに及んで、遂にやむなく同年五月初め頃本件建物の権利証を、ただ友重の信用をつけるために、貸主に見せるだけとの約束で同人に預けた。ところが友重は森田信次郎から金借するということで、森田からの要求があるというので、その後被控訴人は友重からの申し出に応じて被控訴人の印鑑証明、宛名人及び委任事項等全部空白の白紙委任状各二通を友重に交付し、また借受金の受領証に被控訴人の印章を押すためとのことでその実印を友重に預けた。友重は被控訴人から預かつた右の権利証、印鑑証明、白紙委任状及び実印を以て森田に対し本件物件を担保として金五〇万円の金借方を申し入れ、借受金の受領証代りとして友重において被控訴人名義で作成した金額五〇万円の約束手形一通と共に右書類等一切と実印を森田に交付した。森田はまた金山武弘を介し、同人に右書類一切を交付して本件物件を担保とする金五〇万円の金借方を控訴人に申し入れさせ、結局金山において、被控訴人の代理人として同年五月一五日控訴人から金五〇万円を、弁済期同年七月一四日、利息日歩二〇銭、期限後の遅延損害金日歩三〇銭の約で借受け、控訴人のために右債務につき本件物件に抵当権を設定し、該抵当債務を期限に弁済しないときは、代物弁済として右物件の所有権を移転すべき旨の抵当権の設定及び代物弁済予約の契約を結び、前記の権利証、印鑑証明及び白紙委任状を控訴人に交付し、利息及び登記費用等を控除せられて四四六、〇〇〇円を受領したものである。そして森田は右金員受領の際前記のようにして友重から受取つていた被控訴人の実印を控訴会社に持参して控訴会社に示し、右金員の受領に立会つたものであり、控訴人は右各書類及び実印の持参によつて、前記の各契約の締結につき、金山に被控訴人を代理すべき権限があることを信じてその契約をしたものである。

なお金山は控訴人から受領の右金員中二〇万円だけを森田に渡し、残余は全部金山の森田に対する債権の弁済として受領し、また森田も右金二〇万円中七万五千円程は森田の友重に対する既存債権の弁済とする趣旨でそれを友重に交付せず、また残余の十二万円余も全部これを自己に残して、結局本件借受金は現金としては全然友重の手には入らなかつたものである。

右の通りに認定できるところであり、甲第二号証記載、原審並に当審証人友重寿太郎、当審証人森田信次郎の各証言及び被控訴本人の原審並に当審供述(当審第一、二回)中には右認定に反する部分があるが、いずれも信用できないところであり、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(二) 右事実関係からすれば、被控訴人が友重に本件物件の権利証だけを預けた当初はともかく、森田からの要求があるというので印鑑証明と白紙委任状を友重に交付し、殊に借受金の受領証に押すための実印を同人に預けた当時においては、被控訴人は友重に対し、前記書類等を友重の信用をつけるためただ同人に預けただけの関係に止まるものではなく、友重が右物件を担保として被控訴人名義で金借することを承諾し、右についての代理権を同人に与えていたものと認めるのが相当であると共に、仮に右の代理権にあつては、復代理人の選任権まではこれを許したものではないとしても、前認定のように、家屋についての抵当権の設定その他の処分に要する権利証、印鑑証明書、受任者及び委任事項等全部空白の白紙委任状にその実印まで添えて任意交付した者は、爾後右書類等によつて右物件に利害関係を生じた第三者との関係においては、右書類等の所持人に右物件の処分につき代理権を与えた旨を表示したものとして民法第一〇九条による責任を負担すべきものと解するのが相当である。そして控訴人が前記の書類を持参した金山に被控訴人を代理すべき権限があると信じたことは前認定の通りであり、また前認定の事情の下にあつては、控訴人が右の如く信じたことには何等の過失もないものと認めるのが相当である。

従つて、本件貸借による貸金は全部金山及び森田の手に帰して、友重には何等の入金もなかつたこと前認定の通りであつて、結局被控訴人の友重に対する本件担保の貸与も、こと志と相違し、事情の同情すべきもののあることはこれを認めるに足るのではあるが、右の事情は、これと何等の関係もない控訴人に対する関係では、これを何等の抗弁ともすることはできないものであり、結局被控訴人は控訴人に対し、前認定の金員の貸借、抵当権の設定及び代物弁済の予約の契約上の義務について、その責を免れることはできないものといわなければならない。

(薄根 村木 山下)

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